自分のやりたい・できるを表現することで地域とつながる

八塚 裕太郎さん
山口県出身。2020年に東京から佐久穂町に家族で移住(二拠点居住)。大学時代の建築学を生かし、コクヨで18年勤務したのち、2016年からヒトカラメディアに入社。現在はリモートと出勤のハイブリッド勤務で、働き方改革に合わせたオフィスリニューアルや複合施設の開発のコンサルティングを行っている。コロナ禍をきっかけに、まるはち一箱古本店の屋号でDIYワークショップのコーディネートを副業として立ち上げています( https://www.instagram.com/8ookcase/ )。

想い:「佐久で自分の実現したいことや、
できることを生かしていきたい。」
課題:「地域で関わりたい人を受け入れていきたい。」

柳澤拓道さん
株式会社MoSAKU代表取締役。地方創生事業から、コワーキングスペース「ワークテラス佐久」の運営をはじめ、佐久広域エリアの地域文化を未来につなげる「ASAMA CLASSICO」ブランドを立ち上げ、「浅間コーラ」を開発・販売。また2023年には、中込駅構内に超まちづくり事業として、カフェ&コミュニティ店舗「TonaRide(トナリデ)」をOPENするなど、地域の可能性に向き合うプロジェクトを日々組成している。

家具開発やオフィスデザインなどの経験を地域で生かしたい

柳澤:八塚さんにはこれまでに、MoSAKUで浅間コーラを販売するための屋台づくりや、JR中込駅に隣接するTonaRide(トナリデ)のDIYイベントなど、複業人材としてサポートいただきました。DIYで何でも手がけてしまう八塚さんですが、これまではどんなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

八塚:僕は大学では建築学を学んでいました。そこで建築計画の研究をしていて、学校の校舎を設計するにはこういうことを大事にしようとか、かっこいいデザインよりも、どういう空間にしていくと意義があるのかなど、そういったことばかり考えていたので、空間づくりの思考は学生の時から身についていたのだと思います。
 大学卒業後は、学校家具などを扱っているコクヨに入社し、学校家具の開発を担当していました。その後は、コクヨから出向して、オフィス研究のコンソーシアムの事務局をしたり、通販部門も経験したりと18年ほど勤務しました。
 コクヨでの家具の開発をはじめ、企業の働き方の動向調査からどんなオフィスがいいのかを考えていく過程など、そういった経験が今の仕事にも生きているなと思うことはたくさんあります。

柳澤:現在お勤めのヒトカラメディアでは、どのようなお仕事をされているのでしょうか?

八塚:オフィスをつくる時や、移転する際のコンサルティングをしています。移転先を探したり、内装を提案したり、予算を管理したり。そのプロセスの中で、会社側と現場側で話し合う機会づくりを行っています。
 会社としてはこういうことを目指していきたい。現場としてはそれを目指すために大事にしたい働き方はどのようなものかという問いを、クライアントと一緒に話しながら見つけていきます。
 こうした話し合う場面をつくらずに、会社側が一方的にオフィスの在り方や働き方を決めてしまうと、経営と現場でボタンのかけ違いが起きてしまいますからね。

柳澤:佐久地域のプロジェクトでも、僕の思いをくみとって、提案してくださいましたね。

八塚:そうですね。僕の信念でもあるのですが、それは学生時代から変わっていなくて、何を大事にするかを明確にしてからデザインしていきたいという思いがあるんです。
 ヒトカラメディアで手がけたプロジェクトの一つに、隠岐の島の高校の視聴覚室をリニューアルしたいというものがありました。
 ただリニューアルするのではなく、地域の未来をみんなで話しながら作っていくための教室にしていきたいという希望があり、それをいきなりデザイン提案をするのではなく、先生方や生徒の皆さんに話しを聞いたりしながら、「本当はこうだったらいいのになぁ」という言葉を集めて、地域の方々が大事にしたいものを掲げ、そこに向けてチャレンジしやすい環境をつくっていきました( https://hitokara.co.jp/posts/oki-dozen-interview )。
 佐久地域でも、こういった挑戦が生まれる場づくりで役に立って行ければなと思っています。

本業ではオフィス移転等のコンサルティングを行っている八塚さん

地域複業に自分はどう関われるか? ツアーへの参加で見えたもの

柳澤:八塚さんに最初にお会いしたのは、3年前にワークテラス佐久が企画した「地域複業スタートアップツアー」にご参加いただいた時でしたね。

八塚:そうでしたね。僕の家族が東京から佐久穂に移住したのが4年前のことで、当時は、長野と東京を行き来していても、知り合いが全く増えなくて。娘の学校の保護者とのつながりはできるけれど、一緒に飲みにいくわけでも、遊びにいくわけでもなく。
 そんな中で、現職を生かして長野側でも、オフィスをつくる仕事とか何か自分ができることがあったらいいなぁと思っていて、でもどんな可能性があるかも分からなくて、それを探すためにツアーに参加しました。

柳澤:ツアーでは、地域の温泉宿やワイナリーを巡りながら事業アイディアを考えたり、街歩きしたり、旅館で飲んだりしましたね。

八塚:合宿の2日間のまとめを「遊びの開拓」とできたのが印象的でした。
 複業といっても、それで稼ぐというのではなく、遊ぶことから始めたいなと感じました。このツアーに参加するまでは、フルタイムの軸足を長野に移すことができるのか?でも、東京のほうがお客さんもたくさんいるし、仕事しやすいなぁと思っていたのですが、その時に、フルタイムではない関わり方もあると気付き、それが自分の中での解決の糸口につながった気がしました。

ワークテラス佐久主催の複業ツアーに参加。地域との関わりが始まった


地域の人たちと一緒に作ることで変わる関係

柳澤:そんな中で、八塚さんならできるかもと思ってご相談した浅間コーラの屋台づくりやTonaRideの空間づくりに今までのご経験が生かされていたのですね。

八塚:屋台は一番最初は、東京の商店街から頼まれて作ってみたことがありました。商店街の方から、「あれだけ家具を作れるんなら、屋台も作れるでしょ?」と相談されて、実際に作ってみたらとても面白かったんです。
 何が面白いかというと、商店街で屋台を作れる場所がなかったので、商店街のど真ん中で屋台を作っていたんですよね。
 そうすると、行きで見かけたおばあちゃんが帰りに、「あなた若いのに大変ね」と声を掛けてくれて、差し入れにウイスキーボンボンくれたり(笑) みんなが見える中で作ることで、その場に溶け込んでいく手ごたえを感じました。

柳澤:僕も屋台作りをお願いしたい際に、八塚さんが最初に、「人通りがあるところでやりたいです」と言うので、最初はどうしてそんなことを言うのか分からなかったんです。でも、実際にやってみて分かりました。
 中込の商店街で、子供や地元の高校生も混ざりながら屋台を作っていたのですが、通りすがりの人が声をかけてくれたり、おばあちゃんが、クラフトコーラを売る屋台なのに、コカコーラの差し入れを持ってきてくれたこともありましたね(笑)

中込商店街の中心を借りて屋台制作を行なった。

八塚:そうやって周りの人に知ってもらいながら、一緒にイメージを共有していくのが、その先の活動につながると思っています。
 だから、ワークテラス佐久の会議室で人知れずつくってしまうよりも、つくりあげている段階から地域の人たちと出会ってしまうことのほうが大事だと思うんです。
 僕自身も、ただつくりたいというよりは、一緒に盛り上がりたい、楽しみたいという気持ちが強いので。粛々とつくるわけでなく、「一緒につくる」なので、柳澤さんが大変かもしれないですけど(笑)

柳澤:僕もやってみて分かりました。これは大事だなと。とくに僕は、街づくりをやっているので、できあがったものを「はい、使ってください」だと、だれも見向きもしないし、使ったとしても、ただの消費者と供給者の関係で終わってしまうんですよね。でも、一緒につくると関係は変わりますよね。

楽しみながら関わることができた幸せな時間


柳澤:それから、ちょうどその頃、JRの職員の方と、中込駅構内にある中込プラザをどうしていくか?という話しになり、借りてくれる人もいないし頭を悩ませていたんです。
 浅間コーラも売れ始めていたので、出荷の拠点や製造の拠点がほしいなぁと思い、自分で借りることにしたんですよね。でも、建設会社にお願いをしてリノベーションするとなると相当なお金がかかるし、この施設に大きな投資をして収益を稼ぐ場所ではないなと思っていました。地域の人たちと繋がりを持ち、倉庫としても使えて、普段はカフェやランチ営業もしながら、いざとなったら家具を外に持っていくこともできる「モバイル拠点」にしたいと考えました。その時に、屋台でお世話になった八塚さんにまた相談してみようと思ったんです。

八塚:かっこいいカフェを安くつくりたいという依頼だったらどうしよう(笑)と思いましたけど、柳澤さんがここだけで店舗経営するのではなく、モバイル拠点にしたいということだったので、プロにお願いする部分と、自分たちの手でつくる部分を切り分けて考えればできると思いますと返事をしました。みんなで一緒に体験しながら作っていく感じでいいですか?と聞いたら、「いいですね」って言ってもらえたので、僕自身、楽しみながら関わらせていただくことができました。

中込駅TonaRideでは床パネルからDIYを実施した

柳澤:僕は佐久に移住して3年半経ちますが、移住して最初の頃は、リノベーションといえば壁も床も気合を入れてオシャレな雰囲気にして、っていう固定観念があって、当時の自分だったら、それをやってしまっていたと思います。でも、佐久で色んなことを経験する中で、佐久で楽しい場といったらどんなものだろう?と考え、季節によって佐久の色んな場所に移動することができるようなキャスターがついている家具のある空間もいいなとか、そういうことが分かってきました。

 八塚:ただの台がそこにあっても何とも思わないけど、屋台のように形ができることで、何かやってみたくなる瞬間ってありますよね。それを見て、そこで新しいことにチャレンジする人が出てきたり。コーラの屋台も作った日に、その屋台でかき氷を配り始めたり(笑)
 そういうのを見ると、「やっちゃってるよ!」ってすごく嬉しくなってテンションが上がるんですよね。  TonaRideも、ただ一人の店主がそこで営むわけではなくて、ある時はカレーが食べられたり、ある時は本を売ったり、ご飯を食べている横で楽器の演奏が始まったり。
 計画したものではなく、その場の雰囲気や気持ちとか、色んな人の色んな企てがそこで起こっているのが、いい場所だなと思います。

柳澤:企てといえば、来月は地元の小学生が大福を販売したり、みんなでキムチを作ったり、高校生がカフェを開いたりします。TonaRideを屋台のような、マルシェのような場に見立てて、色んな人が色んなことにチャレンジする場所になってきているなと実感しています。

イベント時に多くの人で賑わう中込駅TonaRide。地元の方とも交流が生まれてきている。


八塚:柳澤さんには、大らかにやらせてもらって、訪れた人が「自分も何かできそうかも」っていう想像を空間の中に盛り込むことができたかなと思っています。

柳澤:改めて、八塚さんが佐久での地域複業で得たものや、これからの思いなどお伺いできたらと思います。

八塚:佐久での地域複業を通して、皆さんの創作心や前向きな気持ちと接することで、僕も幸せな気持ちになりました。移住当初は、本業以外の関わり方が見えなくて、地域で何をすることによって何の役に立てるのか分かっていませんでしたが、柳澤さんとのプロジェクトを通じて、僕も家具づくりのスキルで役に立つことができるって自分自身でも気付けましたし、体験しながら見えてきた部分がたくさんあります。ちょっと時間をかけてでも、関わっていくと新しいことが発見できて、幸せな時間を共有できることが、地域複業の面白いところだと感じています。

■佐久での地域複業にご興味のある皆さんへのメッセージ

最初は地域とのつながりを持つのが難しいかもしれませんが、まずは何か自分ができそうな場に身を置いてみるのもいいと思います。何かの場面に出会うと、自分のこの部分が発揮できるかもというのが見つかってきます。
 何かの機会に、「僕、ちょっとできるかも」というのが発生すると、頼む側もイメージがわいてきて、「あれできるなら、これできる?」と重なっていくことが多いなと思います。そういったステップアップしていく繋がりは、佐久は生まれやすい場所だと感じます。
 自分の実現したいwillと、できるcanを表現したり、共有していく努力や工夫。また、機会を得ていく中で、当初自分が想像していたものとちょっと違うカタチかもしれませんが、自分を生かせる場が地域の中で、見つかって広がっていくと感じています。

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